「風邪などで体調を崩してから急に動けなくなってしまった」という方。病気の進行だからとあきらめていませんか?
進行性の難病だからといって、動けなくなる原因は病状の進行だけではありません。
「難病は治らないんだからリハビリなんてする意味はない」は間違い
訪問看護ステーションを利用する方には進行性の神経難病の方も多くいます。
難病を患っている方について、ケアマネージャーや医療機関から「治らない病気だからリハビリをやっても意味がない」と言う人がいると相談をうけることがあります。
確かに進行性の難病は病気の進行を遅らせるには薬などに頼るしかありません。
しかし、適切なリハビリを受けないことで、病気の進行よりもはるかに早く、日常生活が困難となってしまうことがあります。
病気の進行と廃用による機能低下の違い
進行性の神経難病の場合、月日とともに徐々に、あるいは急激に病状が進行します。
この進行の度合いは病気によって様々です。
病気の進行とは
病気の進行とはどのようなことなのでしょうか?
神経難病は脳や脊髄などの神経系になんらかの異常があることで発症します。
この神経に命令をする場所が壊れてきたり、神経を正常に動かす物質が足りなくなったりすることで、手足が動かしにくくなったり、バランスが取りにくくなったりという症状がでます。
この「場所」や「物質」の状態が変わることで、手足の動きにくさや、バランスの取りにくさが変化して、結果として症状が重くなっていきます。
つまり、病気の進行とは、目に見えない脳や脊髄などで起こっています。
廃用による機能低下とは
一方、廃用による機能低下とはどのようなものでしょうか?
<廃用>
① 用をなさなくなること。
② 〘医〙 長い間使わなかったために、器官や筋肉の機能が失われたり、萎縮すること。 「 -性萎縮」
大辞林 第三版
「廃用」について、上記のように辞書には書いてあります。
筋力というのは、使わないと衰えるというのは一般的に理解があると思います。
廃用による身体機能低下が起こるのは、以下のような経過を辿ります。
神経難病により動きにくくなってきて、家で過ごす時間が長くなってくると、どうしても1日の活動量が減ってきます。
活動量が減ると、身体を動かさないので筋肉を使わなくなります。特に、重力に抗して身体を保つ筋肉である、腹筋やお尻の筋肉などが衰えてきます。
筋肉を使わないと筋力が衰えてきます。
筋力が衰えると、動きにくくなってきて、さらに活動量が減ってくるという悪循環に陥ります。
これが廃用による機能低下になります。
つまり、廃用による機能低下と筋力低下は密接に関係しているのです。
筋力低下とは
ここで少し専門的な話をしますが、この後に出てくる進行性難病の方にリハビリは必要という話に繋がってきますので、説明しておきます。
筋肉は筋繊維という細い繊維が束になって、筋繊維束となり、それがさらに集まって骨格筋(スポーツジムなどでよく聞く「上腕二頭筋」や「大腿四頭筋」など名前がついています)になっています。
この構造が筋力低下と関係してきます。
筋力低下の原因
筋力が低下するには大きく分けて2つの理由があります。
①筋萎縮
②動員する運動単位の減少
筋萎縮
筋繊維の萎縮や減少により筋肉自体の太さが細くなると、筋力は低下します。
*筋力は筋断面積に比例して強くなる(福永,1978)
動員する運動単位の減少
運動単位とは、「1つのα運動ニューロンとその運動ニューロンが神経支配する全ての筋繊維」のことです。言い換えると、運動の指示を伝える神経と運動の指示に従って動く筋繊維の集まりのことです。
この運動単位が集まって、一つの筋肉になっており、運動単位の動員する数(同時に動いている運動単位の数)によって発揮する筋力の調節が行われます。
つまり、運動単位が多く動員されると大きな力が発揮され、動員数が少ないと小さな力となります。
筋力の発揮には生理的限界と心理的限界というものがあります。
筋肉の持っている潜在的な力(すべての運動単位が動員される場合)を生理的限界といいますが、最大筋力を発揮するときは、筋肉のすべての運動単位が動員されるわけではなく、何%かは動員されません。
過剰な力を発揮して筋肉が壊れてしまうのを防ぐために脳が無意識に制御しているもので、これは心理的限界と呼ばれます。
豆知識
「火事場のくそ力」は危機を感じたときに普段以上の力を発揮することをいいますが、これは普段の心理的限界を超えて力を発揮するため、大きな力を出すことができるという、科学的にも理論付けできるものです。アスリートは心理的限界を極限まで引き上げることで高いパフォーマンスを発揮することができるのですが、重量挙げやテニスなどで声を上げている選手をよく見ますが、シャウトすることは心理的限界を引き上げる一つの方法で、この理論を利用していると考えられます。
筋力が低下している人は、心理的限界のように動員される運動単位に制御がかかってしまっています。
筋力低下の場合はその制御とは、脳からの制御(抑制)というよりは、脳からの司令に反応する運動単位が少ないというようなイメージになります。
説明が長くなりましたが、動員できる運動単位が少ないと同じ筋肉の太さでも筋力は低下します。
廃用による機能低下(筋力低下)を改善する方法
ここまでの話を整理すると
①病気の進行による機能低下と廃用による機能低下は違うものである。
②廃用(活動量の低下)が筋力低下を引き起こし、さらに廃用が進む。
③筋力低下とは筋肉の萎縮と動員する運動単位の減少の2つの理由がある。
という3点を述べてきました。
では、廃用による機能低下を改善するにはどうしたら良いでしょうか?
その一つの方法が筋力低下を改善することになります。
年齢などを理由に、筋力の改善はできないと思う人もいると思いますが、それは間違いです。
何歳になっても筋力は回復できます。
もちろん高齢になるほど筋肉の萎縮を改善するのは難しくなってきます。若い頃のように筋肉が太くなっていくのはあまり期待しないほうが良いかもしれません。
しかし、動員する運動単位を増やすことは何歳になってもできます。
適切な方法や回数で繰り返し筋肉を使うことで、動員する運動単位は増えていきます。
進行性の難病だとしても、廃用で低下した筋力は、病気の進行によるもののレベルまでは引き上げることが、理論的には可能になります。
進行性難病の方が廃用性の機能低下を改善するときの注意点
進行性難病の方が廃用による機能低下を改善するために、筋力を回復しようと思った場合には、注意点があります。
進行性難病の方は過剰なトレーニングをしてしまうと、組織を壊してしまい、逆に筋力が低下してしまうことがあります。
ではどのくらいがよいかというと、一般的には翌日に疲労が残らない程度と言われていますが、その人によって、疲労の出方なども違いますし、一概には言えません。
どのくらいがよいかはある程度経験による判断が必要になってきます。
正しいトレーニング方法は、必ず医師の指示のもと、運動の専門家である理学療法士や作業療法士などの指導を受けるのが良いと思います。
まとめ
進行性難病の病気の進行による機能低下と廃用による機能低下は別のものであり、後者は改善の余地があります。
改善の方法の一つは、機能低下の原因の筋力を回復することです。
筋力の発揮の要因のうち、動員する運動単位の増加が筋力回復の鍵である。
筋力回復の方法は、翌日に疲れが残らない程度がよいが、詳しい運動方法や回数などは、医師や理学療法士、作業療法士などの指導のもと設定するのがよい。
正しい方法でトレーニングしていけば、進行性難病の方でも機能の維持回復はできますので、あきらめずに専門家へ相談してみてください。